オウトツムゲツ*

とある夢の国の年末（？）

アリスと白ウサギとジャックと女王陛下の場合

アリス「ニューイヤーまであと少し…？ねえ白ウサギ。『にゅーいやー』って、何？」
白ウサギ「新年という意味だね。暦の上で新しい一年が始まること」
アリス「こよみ…。今日は何月何日？」
白ウサギ「ハートの月の第３１日」
アリス「明日は？」
白ウサギ「ハートの月の第１日」
アリス「……また１日に戻っちゃうの？」
白ウサギ「ハートの女王陛下の在位期間が続いているからね。ひと月終わったらまたもうひと月」
アリス「ふぅん…。ねえ白ウサギ、ハートの女王陛下以外に、王様や女王様になる人っているのかな？」
白ウサギ「それはわたしにもわからない。なにせ、わたしが生まれた頃から『王』と名のつく者は
女王陛下以外にいないから」
アリス「…女王陛下っていくつなのかしら…」
ジャック「その言葉は禁句である」
白ウサギ「おや、ジャックじゃないか。驚いた」
アリス「久しぶりね。ねえ、ジャックなら女王陛下のねんれい…」
ジャック「聞こえなかったのか？その言葉は禁句だと言ったのだ。陛下の年齢なんて…」
アリス「そうなの？」
女王陛下「何やらわたくしの話をしていなかったかい？」
白ウサギ「これはこれは、我らが女王陛下。書庫へおいでになるとは珍しい」
女王陛下「イカレ帽子屋を探していてね。見なかったかい？」
アリス「ハッターさんを？」
女王陛下「紅茶を注文しようと思ったんだがねえ」
白ウサギ「それなら、わたしが後で伝えておきましょう」
女王陛下「そうかい、では頼んだよ。……で、ジャック？わたくしの年齢が、なんだって？」
ジャック「はっ？！それはわたしではなく、この娘が…」
女王陛下「ほう？アリス、申してみよ」
アリス「えっ、ええと…」
白ウサギ「アリスは、女王陛下はお若く美しいと言っていたのですよ。美しさに年齢は関係ないと」
女王陛下「そうかい？ま、まあ…悪い気はしないが…」
白ウサギ「謙遜なさることはありません。わたしもアリスと同意見ですし」
女王陛下「……うむ、白ウサギとアリス、それにジャック。今度わたくしが催すお茶会に出席するといい」
白ウサギ「光栄です、陛下」
女王陛下「では。ジャック、仕事があるんだ。ついておいで」
ジャック「はっ」

アリス「……助かっちゃった、って言っていいのかしら…」
白ウサギ「ちょっと冷や汗ものだったな。まあ、女性が年齢に敏感というのは分かるが…」
アリス「もしかして、白ウサギはお世辞が上手なのかしら」
白ウサギ「そんなことはない。危険を回避するのが少し上手いだけだと思っているよ」
アリス「…なんだかフクザツ…」


チェシャ猫と帽子屋、白ウサギとアリスとヤマネの場合。

チェシャ猫「おせち？おせちって何だ？」
イカレ帽子屋「異国の伝統料理だ。新年から三日間、同じものを食べる」
チェシャ猫「……よく知らないけど、最後の認識は間違ってるんじゃないかな」
帽子屋「とにかく、おせちを作って新年を祝おうじゃないか！そのためには今日中に作り終わらないと！」
チェシャ猫「ふーん。で、僕が君のアシスタントなわけ？」
帽子屋「そ。まずはくりきんとん！」
チェシャ猫「栗とサツマイモ…？僕これ嫌い」
帽子屋「じゃあ昆布巻き」
チェシャ猫「昆布嫌い」
帽子屋「じゃあ煮豆…」
チェシャ猫「豆なんて食べるわけないだろ」
帽子屋「伊達巻は？」
チェシャ猫「たまごなら食べるけど…作れない」
帽子屋「……お前、どうしてここにいるの？」
チェシャ猫「アシスタントでしょ？味見の。あ、かまぼこは好きだなーそれ魚でしょ？ちょうだい」
帽子屋「ダメ！役立たずの上盗み食いだって？絶対許さん！」
チェシャ猫「けちー」
白ウサギ「…おや、こんなところにいたのか。厨房で何をしているんだい？」
アリス「なんだか甘い匂い…わあ、見たことのない食材がいっぱい！」
ヤマネ「あー！またこんな怪しげなものを持ち込んで！陛下に言いつけちゃいますからっ」
チェシャ猫「やあ僕のアリス！と、その他のヒト」
帽子屋「よ。丁度いいところに来たな。お前らも手伝ってくれよ」
アリス「お料理してるの？」
チェシャ猫「おせちって言うらしいよ。かまぼこを美味しく頂くのが主な目的」
帽子屋「それはお前の目的だろっ」
ヤマネ「あたし達は陛下から用事を頼まれているので、残念ながらご一緒できませんね」
チェシャ猫「ぇえ～？アリスがそっちに行くなら、僕もついて行くよ」
帽子屋「おい、裏切るなよ！」
チェシャ猫「失礼な。僕は役立たずだから離脱するだけ」
白ウサギ「大した用事ではないのだが、大人数になってしまったな…まあいいか。
あ、そうそう。ハッター、陛下が紅茶を注文したいと言っていたよ。後で話を聞いておいてくれ」
帽子屋「それは毎度あり！…じゃなくて！おい、オレは新年のために――」
ヤマネ「それでは行きましょうっ」
アリス「行ってきまーす」
白ウサギ「頑張れよ、ハッター。おせちとやら、楽しみにしてるよ」
チェシャ猫「かまぼこは僕のものだからね？じゃあ頑張って～」

帽子屋「……。」